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それは仮に、この戦争にアルディスが勝利したとして、その結果だけで、彼女の心から綺麗に消えてしまうものなのだろうか。
にわかにそうとは思いがたい。そう簡単に、スイッチのようにオンとオフが切り替わるとは思えない。
しかも、ゼノビアとアルディスが統一されれば、当然ながら人間の行き来も生まれるだろう。
ゼノビア人という存在を、シャーロットは受け入れられるのだろうか――。
アルディストンの土地をゼノビア人が平然と歩くという未来を。
「できることならば、わたくし自身で究極魔法を使ってしまいたいくらいです。この手で直接、終わらせたいくらいですわ……」
復讐に取り憑かれた研究者、か――。
ふとそんなことを思った。
しかしたった一人の人間が、大規模な破壊力を持つ究極魔法を使うという場面は、簡単には想像できそうもなかった。
「――魔法を使える人間なら可能なのか? たしかさっきの話だと、化神クラスの力が必要だってことだったけど」
ゆらゆらとシャーロットは首を振った。
「残念ながらその通りです。『ラグナロク』を単独で扱えるのは、現状では化神だけだしょうね。少なくとも――レジーナ様はそうおっしゃっていました」
神徒レジーナ。噂だけに聞くだけの、アルディスの化神の一人。
姿を遠巻きに見たことがあるだけの、ハンスにとっては、どこか現実離れした存在だ。
「レジーナ様か――。そういえば、女性だったな……」
同性であるからこそ、シャーロットとの関わりも深いのかもしれない。
「あら、気になりますか?」
不意に、シャーロットは楽しそうな笑みを浮かべる。
今日初めて、年頃の女の子らしい表情を見た気がする。
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