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その瞬間に、驚きのあまり身を引いた。ちょうど視線の先に、人間の背中があったからだ。
そこは例の資料をとりあえず一ヶ所にまとめていた場所で、その人物はまさにその書類に目を通しているようだった。
そして、なにより驚いたのは、その人物が女性だったことだ。
いや正確には、絶対そうである証明はできないのだが、背中まである金色の髪の毛と、それから身体つきを見て、ユキは視覚的にそう判断したのだ。
それにしても、どうしてこんな場所に女のひとが――?
しかも見るからに、高級そうな衣服を身にまとっているのだ。
それは白を基調とした、清楚かつ女性的デザインとなっているが、よくよく見てみると、どうやら軍服のようだった。
ロングスカートの上にブレザーコートを羽織ったような、そんな気品溢れる大人の服装だった。
そんな軍服は、ブレイバーのどの階級のデザインとも合致しない。アルディス軍幹部が着用する格式の高いそれとも違っている。
けれど、彼女はここ本館の四階にいるのだ。
そう、軍の関係者――もっといえば一定以上の役職者でなければ、立ち入りができないはずのこのフロアに。
いったいなんの関係者だろう?
するとそこで、ユキの気配を察知したのか、軍服の女性がくるりとこちらを振り返った。そしてユキは、更なる驚愕に包まれることとなる。
「えっ……あっ……あ……」
見覚えがあった。その女性の顔を、ユキは見たことがある。
「あら。ごめんなさい」
彼女は上品にそういった。透き通るような、気品さを感じさせる、とても綺麗な声だった。
そして柔らかな微笑を浮かべる。すべてを包むような穏やかな表情に、ユキは思わず、吸い込まれてしまいそうになる。
「お片づけの邪魔をしてしまって。――あなたはもしかして、パラディンのブレイバーさん?」
あまりの衝撃に、すぐに反応することができなかった。
やがて彼女が不思議そうな顔に変わったために、ユキはようやく我に返ることができた。
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