一章 未完の新兵器

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 ずいぶんと脱線したような気もしたが、要するに、究極魔法の完成は近いということだ。  しかも、その試作型が、アルデウトシティの戦いで行使されるかもしれない。  シャーロットは、その結果を心待ちにしている――。  どんな凄惨な結果を生むともわからない、未知なる魔法の、その結果を。  まあ、今も見るからに疲れが溜まっている彼女を見れば、これまでの地道な努力は強く伝わってくる。その想いが報われて欲しいと思う気持ちは、少なからずハンスにもある。  そこで、ハンスはふと、思い出した。  さきほど三階の魔装管理課で会ったとき、シャーロットがいっていたことを。 「そういえば、何か俺に訊きたいことがあったんだっけ?」  シャーロットからの質問というのは珍しい。  そもそも何かの知識において、秀才である彼女の助けになれるようなことがあるだろうか? 「ああ、それは」  といったシャーロットの表情から、仕事の顔がすうっと消えていった。  公的な立場である顔から、プライベートタイムの、十六歳の女の子としての顔に、瞬時に変化したような気がした。 「雑談程度に聞きたかったのですが、ソフィはこの頃どうしてますでしょうか? あの子は戦場に出ているわけではないので、なかなかここにいては情報が入ってこないんです。もちろん、知らせがないということは、負傷もなく無事だということなのでしょうが……」  なるほどそういう話題か、とやけに納得した。ようやく、年頃の女の子らしい姿を見せてくれた。  ハンスのほうも、気持ちが穏やかになっていくのを感じた。
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