二章 決戦に臨む者たち

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 顕暦八七四年、仲秋の月、二十日――。  開戦から四十日目。  夜のベースキャンプは、ただならぬ緊迫感と、そしてのしかかるような疲労感に満ちていた。  毎日のように怪我人や死者が増え続け、そして軍自体も後退を余儀なくされ続けているのだから、そうなってしまうのも致し方ないところだった。  じわじわと精神が蝕まれていくような感覚だ。それが長く続くことで、軍は士気を失い、そして瓦解していく。組織的な運用が不可能になる。  そうなる前に、まだ兵士たちが気力を残しているうちに、反撃の糸口を掴まなければならない。まさにターニングポイントといっていい時期に差し掛かっている。  敷地内の端に建設された小さな水呑場で、ユキは一人で嘆息した。  この水呑場も、ゼノビア軍の侵攻がすぐに及ぶだろうということで、非常に簡素な作りになっている。  すでにアルディス国内の街のいくつかは、ゼノビア軍の拠点として占拠されている。それもまた、アルディス軍の苦戦の原因の一端でもあるのだ。  街の施設は当然ながら、拠点としての実用性に優れている。頻繁に動くことが考慮されたベースキャンプより、兵士たちは心地のよい休養が取れるだろう。  いくら兵器が充実していようと、戦争というのは、人間の士気によるところが大きい。  そういう場を提供してしまっているわけだ。  不幸中の幸いなのは、アルディスとゼノビアでは、武器となる技術がまったく異なるため、戦争資源を奪われることはない。  要するに、彼らの機械兵器にとって必要な燃料や弾薬などは、自国から運び込むしかないのだ。  その補給線が侵攻によって伸びているのは、アルディス側のメリットだった。  だがそれも、放置していればやがて確立されてしまうだろう――。時間との戦いという様相もある。
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