二章 決戦に臨む者たち

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『自走式対魔法型重兵器参式』というのが正式名称らしい。  今回の戦争で、ユキも初めてその姿を拝んだ。初対面はあの、デオグラストでの兵器工場潜入任務だった。  十メートル近くはある体躯を持つ金属の兵士は、生身の人間ではひとたまりもないほどのエネルギーを秘めている。  たとえパラディンといえど、あの力に真っ向からぶつかることはできない。それは命を捨てるような行為だ。  その自走兵器と、歴史的に、戦場で最初に交わったのは、ハンスも組織されていた部隊だった。その戦いに、ユキは参戦することも目撃することもできなかったが、凄惨な戦闘となったことは間違いない。  ブレイバーパラディン昇格の最有力といわれていた実力者、バーティストン一族の子息であるゼーファスは、その戦いで命を落としたのだ。  彼以外にも死者は多数にわたった。あの戦いだけでも、ブレイバーだけで十数人の死者が発生している。  そうした事実もまた、士気の低下を招いているのだと、ユキは思っていた。ブレイバーは選りすぐりの戦闘集団とはいえ、しかし人間の心を捨てた機械ではないのだ。  中には感情の起伏が大きな者もいる。全員が全員、氷のように冷たく冷静でいられるわけではない。  感情のコントロールに不慣れな者は、そうしてモチベーションを下げていく――。  そういった人員も含めて、戦力を上手く操るのもまた――人間の上に立つ側であるパラディンの仕事だ。組織上の幹部はアルディストンに控えているが、実際の戦場では、やはりパラディンが指揮を執るべきなのである。  ユキは気を引き締め直した。  ユキもまた、今は一つの部隊を指揮する立場に就いている。せめてそのメンバーだけにでも、活力を取り戻させなければならない。  身近なところから地道にこなしていくしかないのだ。
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