二章 決戦に臨む者たち

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「早く彼に想いを伝えなよ。それが一番いいって」  またしても唐突だった。しかもまた、彼女から初めて聞くような、穏やかで優しさに満ちた声だった。  いわれた言葉の意味を理解するのに、少々の時間を要した。これも冷やかしの類いなのかと思ったが、どうやら雰囲気から察するに、そうではないらしいとわかった。  今のミーアは真剣だった。雰囲気がそう告げていた。  本気でそうアドバイスをしているのだ。独特の緊張感のようなものが、二人の間には流れていた。  彼女の後押しは嬉しい。とても、とても。涙が流れてしまいそうなくらいに。  けれど――今はミーアの助言どおりにはならない。 「それは……まだ、ダメなの……。この戦いが終わらないと、私は――」  でないと、この不器用な心を上手くコントロールできない。  戦争と愛情と、そのどちらも要領よくこなすなんていう芸当は、ユキにはできない。  戦いに没頭すれば、きっとそればかりに真剣になって、ハンスに冷たく接してしまうだろう。ハンスを深く愛してしまえば、精神のコントロール乱してしまって、戦いに集中することができなくなるだろう。  そんな――要領の悪い女なのだ。ユキという人間は――。  だからこそ、今は、中途半端に答えを出すことはできない。 「明日どうなるかもわからない時代なんだよ? 明日には彼がいなくなるかもしれないんだ。そんな綺麗事いってて、いいの?」  詰問するような調子が、僅かにあった。だからこそ、ユキは少し、心を乱してしまった。 「綺麗事なんかじゃないよ! これは……」  ミーアの驚いた顔が、視界の端のほうに見える。思わず声が大きくなってしまったのだ。 「これは私が自分で決めたことだから……。それだけは、曲げられない。どんなに辛い戦いでも、今は一人で乗り越えなきゃいけない。――ハンスを本当に愛することができるのは、戦争に勝った後の私だけなの……」  いってしまった、という気持ちだった。  愛する、なんていう言葉を、生まれて初めて発してしまった。
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