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これはハンスにすら、まだはっきりと伝えてはいない想いだった。そう考えると、ミーアの言い分もわかる気がする。
せめて一度、ハンスと正面から向き合うべきかのかもしれない――。
答えを出すことはできないにしろ、お互いのために納得し合うことは必要なのかもしれない――。
わからない――。本当に正しい答えなんて、わからない。
視界がぼんやりと滲んできた。ミーアに見られることを拒む気持ちがありながら、しかし拭うことはしなかった。
やがてそれは、滴となって頬を伝っていった。
水呑場の外から、虫が鳴く声が聞こえてくる。それに気づく程の沈黙が落ちて、そして続いていた。
「それが……キミの哲学なんだな……」
やがて呆れたように、諦めたように、ミーアはいった。ここまで続けてきた二人の会話の、一つの答えが出たような瞬間だった。
「哲学――哲学かあ……。そうなの……かもね。そういうものなのかもしれない……」
少し声が震えていたけれど、もう気にしなかった。ミーアの前でなら、いいのかもしれないと、そう思えたのだ。
ユキは人差し指で、涙の滴を拭った。
もう、決めたのだ。
デオグラストの任務が、あのとき感じた喪失感が、ユキを変えたともいえる。
本当の幸せは、戦場にはない――。
たとえハンスが隣にいたとしても、戦場に幸せは存在しない。
終わらせなければ、生まれない――。
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