12人が本棚に入れています
本棚に追加
中身を飲み干した使い捨てのカップを、ミーアはゴミ箱に捨てた。そして、水呑場を出ようとする。
「ねえ、ミーア――」
ほとんど無意識のうちに、ユキは声をあげていた。
「もしかしてミーアも……好きなひとがいるの?」
なぜ、そんなことを訊いたのか、理論立てて説明することはできない。
ただ、犯してはならない領域のギリギリを見極めたとき、ふっと浮かんできた質問が、これだったのだ。
背中を向けていたミーアが、ゆっくりと半身だけをこちらに回した。
「いないよ」
そういったミーアの表情は、一切の動揺を浮かべることなく、普段通りの自信にあふれていた。
「あたしは誰も好きにならないし、誰も愛せない。そういう人間なんだよ」
氷のように冷たかった。
数々の死線をくぐり抜け、そして幾人もの命を奪ってきた、ブレイバーが放つ雰囲気をミーアはまとっていた。
ピリピリと空気が張りつめる。ユキのほうが圧倒されるくらいに――。
そして、くるりと踵を返したミーアは、今度こそ足を止めることなく、夜の闇へと消えて行った。
最初のコメントを投稿しよう!