二章 決戦に臨む者たち

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 それにしても、なぜ、こんな場所に――。  ここは、アルディス軍が簡易的に建造したベースキャンプにすぎない。  そもそも神徒のような、偉大なる人間が、時間を割いてまで足を運ぶ場所ではないのではないだろうか。  出撃するにしても、通常ならばアルディスの軍本部か、その付近から直接現地に出向けばいいはずなのだ。  しかも彼女は――ベースキャンプの外側からやってきたのだ。すぐ傍に生い茂っている森林を徒歩で通り抜けるようにして現れた。  そして、声をかけられたのだ。 「今日は良い天気ですね」と。  まるで世間話をするかのような会話を。  完全に気を抜いていたハンスは、そうですね、と軽く答えようとして、そこでようやく、相手が神徒様であることに気づいたのだ。  その瞬間に、ハンスの口の筋肉は稼働を停止した。  そもそも、どう答えればいいのかすらわからなくなった。  そうですね、なんて、もういえない。  何か敬意を表する言葉でなければ。  頭をフル回転させてみたが、ハンスのほうから話題を持ちかけるなどということは、恐縮すぎて躊躇された。結果、不穏な沈黙を招くことになった。  その状況を見かねたのか、レジーナから名前を訊かれるなどという、無礼極まりないことをさせてしまったわけだ。  そしてまた、ハンスの口は固まってしまっている。  神徒様を前に、いったい何を話せばいいのだろう――?  偶然なのか必然なのか、周囲には今、ハンス以外の人間はいない。  ベースキャンプの入口付近の警備を単独で任されているから、というそれらしい理由はあるにはある。  が、まさかそのタイミングを彼女が狙ってやってきたわけではないだろう。  たまたま偶然、徒歩で拠点を訪れただけなのだ。そこにたまたま、ハンスが警備をしていただけなのだ。
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