二章 決戦に臨む者たち

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 いや――。  本当にそうだろうか? 『ノアの意志』を継ぐ存在でもある化神なら、あらかじめわかっていたのかもしれない。  そんな奇跡もありえるのかもしれない。 『ノアの意志』に従いやってきた。そういわれても、疑うことなく納得できるだろう。  でなければ、わざわざ徒歩で、こんな場所に足を運ぶ理由はないのだ。  実際、神徒様が訪れたというのに、誰一人幹部が迎えにやってこない。ということは、これは予定にない訪問なのだ。  そう、これは神徒レジーナによって、必然的に引き起こされた事態だとしたら――。  そんなふうにすら、考えてしまう。  神徒レジーナが、ハンスとの二人きりでの会話を望んでいるのだ、と――。 「ハンスさん、ですね。――なんだか、とても不思議そうなお顔をされていますね」  ハンスが黙っているせいか、その心中を察するように、レジーナは口を開いた。吸い込まれるような微笑を、口元に浮かべている。  事実、ハンスの身体を司る意思のすべてが、彼女に吸い込まれコントロールされているかのようだった。  察するというか、読まれたようにすら感じた。すべてを見透かすような、妖艶な瞳をしている。  その瞳は――だった。  怪しさと神々しさを同時に併せ持ち、情熱的で支配的な雰囲気を漂わせている。  普通、生まれつき赤い瞳を持った人間は存在しない――はずなのだ。少なくともハンスの知るかぎりは。  アルディスにもゼノビアにもイーヴァインにも、赤の瞳を持つ人種は存在しない。  これこそが、神に与えられた力の証なのだろうか――。
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