二章 決戦に臨む者たち

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 やっぱり他の誰かを訪ねてのことかもしれない――。  そう思ったが、違っていた。  神徒レジーナは、初めからハンスを目標にして現れたのだ。  それを確信させたのは、彼女の赤い瞳が、雄弁にそう語っていたからだ。まるで脳内に直接話しかけられるかのように、そんなイメージが伝わってくる。 「そうですよ? もちろん、あなたのことです。とても素晴らしい力を持っていますね」  まさか化神様に評価されるとは、思ってもないことだ。 「いや、まさか……。全然それほどでは……。ただの……ブレイバーの端くれですから。実力もまだまだ凡庸です」  条件反射的に否定したが、しかしレジーナは、ハンスの言葉を打ち消すように、ゆらゆらと首を横に振った。 「いえいえ、申し訳ありません――。私が力といったのは、あなたの単純なブレイバーとしての実力ではなくて、その内に秘めた能力のことですよ……」  レジーナは、いった。  さも当たり前のことのように、そういった。  そして、一つの合点がいった。それはつまり――ハンスの身体に宿る特殊能力のことをいっているのだ、と。  魔法無力化――つまりはマナを吸収し消滅させる、ハンスだけに宿っていると思われる能力だ。  いまだかつて、同様の力を持つ人間と、ハンスは対面したことがない。  だからこそ、レジーナに能力を見抜かれたことを驚いていた。驚いて、怖れてすらいた。  まるで情報が何一つない今の状況で、目視されているかのように発見されたこともそうなのだが、理由は別にもあった。  それは、これまで誰にも見つけられなかったこの力が、ついに公の場に晒されてしまったという焦りだった。焦りであり、恐怖だった。
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