二章 決戦に臨む者たち

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「――あなたの質問に答えるなら、神徒になれば誰にでもわかる、というわけではありませんよ。きっと、あなたとは相性がよかったんでしょうね。だからこうして気づくことができたのでしょう」 「そんな、奇跡的な偶然みたいな……」  呆れ半分でいいかけたところに、レジーナが素早く割って入った。 「奇跡でも偶然でもありません。あなたもよく知っているでしょう? これは『ノアの意志』です」  そうか、『ノアの意志』か――。  決まり文句を聞かされたような気分だ。けれど、人間でありながら、『ノアの意志』にもっとも近い立場にいる彼女がいうなら、あながち定型文ではないのかもしれない。 「伝承の教え通りにいうなら、あなたは『ノアの意志』によって選ばれた、数少ない一人ということです。けっして凡庸なものではありませんよ、その力は」 「そんな、凡庸だとか特殊だとか……わかるんですか?」  信じがたいことではある。しかし神の啓示を受けた者からのお告げなのだ。凡人に想像できるものではないのだ。 「レジーナ様は、この力の正体を知ってるんですか? もし、知っているなら、恐れ多いですが、教えていただきたいです……」  この力に気づいてから今日まで、この謎は解けていない。わからないままで付き合い続けてきた。  ハンスの心には期待感が渦巻いた。次にレジーナがどんな言葉を口にするのか、それが楽しみでたまらない自分に気がついた。  しかし――。  レジーナの唇が離れることはなかった。  肯定の意志も否定の意思も示さなかった。代わりに穏やかな表情を浮かべている。  黙したままで。それが答えなのだろう。
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