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しかし、レジーナは冷静だった。
そんなハンスの反応をも、見越していたのだろう。
「私が今ここでいえることは、その力は、ほんの僅かに人間にだけ備わった特別なもの、だということだけです。先ほども申し上げたように、世界中であなただけに与えられたものというわけではありません。同じ力を持つ人間は、たしかに他にも存在しています」
「いるんですか。他にも――」
ええ、いますよ、とレジーナはいった。
当然のように、そしてすべてを見透かしたように。
「いずれそれが、わかる日が来るかもしれません。そのときにあなたは、自らの真実と向き合い、そして深く葛藤することになるでしょう――」
真実と、葛藤――。
葛藤するほどの真実なのか?
ハンスはそっと目を閉じた。
真っ暗な世界が広がる。そこで身体中のエネルギーに意識を集中すると、たしかにあの力が体内にあるのを感じた。
巡っている。くすぶっている。潜んでいる。
そこにたしかに存在する。
わからない。
なぜ、そうなるのか。
なぜ、真実と向き合うと葛藤することになるのか。
そして、なぜレジーナは、そんなことを予期することができるのだろうか。
やはりそれも、神徒たる力が所以となっているのだろうか。神徒とは、他者に宿る能力というか、エネルギーというのか、そういった特殊性を見抜く瞳を持ち合わせているのだろうか。
たしかにあの人間離れした赤色の瞳ならば、それが可能になるのかもしれない。そう思った。
あの瞳に見つめられたときに、ハンスは不思議な感覚に陥ったのだ。あの赤色に、吸い込まれそうにすらなった。
神徒レジーナに宿る力とは、何なのだろうか――。
それを知りたい。
化神とはいったい、どういう存在なのだろうか。
「あ、の――?」
弾かれるようにして、目を開いた。
ハンスはさらに訪ねようとしたが、それは叶わぬことだった。
まるで風にさらわれてしまったかのように、そこにはすでに、レジーナの姿はなかったのだった。
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