二章 決戦に臨む者たち

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「簡単にいうなら、要するにこの世界の出来事は全部が全部、『ノアの意志』によって牛耳られているってわけだろ? この一分一秒の間に起こっていることまですべて。まあなかなか、そう聞かされても、完璧に納得するのは難しい理屈だけどな……」  そういった否定的な論調は、アルディストンでは大々的には公言できないわけだが。 『ノアの意志』を信仰し崇拝する連中に、異端といわれて淘汰されるのはごめんだ。  しかしながら、そういう人間も一定数は存在していると思う。胸の内に秘めているだけで、猜疑心を持つ者はいて当然だ。 「さすがハンスだな。なかなか物わかりがよくて助かるぜ。そう、『ノアの意志』と、盲目的にひと言でいう人間が、アルディスには本当にたくさん――無数にいる。けど、その存在は実のところはとても曖昧で不確かなものでもある。――というわけで、オレも『ノアの意志』について、いろいろ思うことがある人間の一人というわけだよ」  妙に改まった口調だった。  つまり、無条件に『ノアの意志』を信仰している訳ではないと、ルカは宣言しているのだ。 「伝承に対して、か? あれ、ルカって、そんなに信仰心の強い――っていうか、伝承とかを気にするタイプだったっけ? なんかそういう俗物的なことって嫌いそうなイメージだったけど」  ルカと『ノアの意志』。  まだつながらないところがあるのだ。どちらかというとルカは、そんな決定論的な考えを否定して、その日その日あるがままに生きようとする性質だと勝手に思っていた。 「ははは、ハンスの思ってる通りさ。オレはそんなに信心深いほうじゃないよ。――ただ、『ノアの意志』っていうたった一つの言葉に人類が踊らされているみたいで、それが嫌なだけさ。あのゼノビアですら、裏では『ノアの意志』や化神の思惑が働いてるっていわれてるんだぜ?」  そうなのだろうか?  ゼノビアの情勢には詳しくない。ただ、情報通のルカがいうなら、そうなのだろうと思える。
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