死にたいけど、死にたくない。死にたくないけど、死にたい。

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「ヒカリのことだから、どうせ夜中まで起きてたんでしょう?」  トモミは、わりばしを割って、手を合わせてから、麺を箸の半分を使って掴んだ。口に近づけて吸い込む(さま)は、掃除機のようだなとぼんやり思う。  口内の麺を咀嚼し終わったトモミが、目だけで私を見た。 「いつも遅くまで何してるの?」 「何って……何もしてないよ」 「あー、あるよね。ウチもね、ぼーっと動画見ながらお菓子食べてると、気がつかないうちに日付変わってることあるもん」  私は本当に何もしていないのだが、そう思ってくれるなら都合がいい。頬を引き上げて笑顔を作る。 「そんな感じ」  トモミは私の回答に満足したみたいで、視線をラーメンに戻した。ずずぞぞぞという豪快な音がして、目の前に汁が二、三滴飛んだ。さりげなくポケットティッシュを取り出し、テーブルの上を拭く。 「ヒカリはうどん?」 「うん」  そぼろ丼にスプーンを入れたトモミが、その手を止める。私の目の前の器をまじまじと見てから、「それだけでよく足りるね」と言った。 「午前中寝てただけで、何もしてないから」  トモミは一応頷いたものの、納得していないような顔をしていた。  その表情のまま、そぼろ丼を持ち上げ、口に入れる。米粒と鶏そぼろが口の端からこぼれて、(どんぶり)の中に戻った。続けてレンゲでラーメンのスープをすくい、口を開ける。飲み込みそこねた米粒とそぼろが見えた。  ああ、健康的だな、と思う。生きるためのエネルギー以上の食べ物を、己の食欲を満たすためだけに摂取する。それを当たり前だと思って生きている。いや、こんなこと自体考えたこともないのだろう。「何も生み出していない自分が、美味しいものをお腹いっぱい食べること」に罪の意識を感じたことなどないのだろう。そんなトモミが、私は羨ましかった。羨ましく思う一方で、馬鹿にもしていた。ここまで考えが及ぶ私の方が、トモミよりも「上」なような気がして気持ちがいいから。
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