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私は恵まれていると思う。奨学金を借りなくても親が学費とアパートの家賃を払ってくれているし、アルバイトをしなくても生活できるほどの仕送りももらっている。「恵まれランキング」があれば、きっと私は上位に入るんじゃないかと思う。
彼氏はいないけど、友達はいるし、ゼミも研究もやりたいことができて楽しい。一人でいても誰からも何も言われない大学生活は楽だし、一人暮らしも自由でいい。
それでもなお、「死にたい」と思ってしまうのは、おこがましいというか、厚かましいというか、恵まれた人間らしからぬ思考だと自分では思っている。しかも、自死を望むのではなく、「殺されたい」と他人任せなところも図々しい。
『生きたいのに生きられない人に対して失礼』だとか、『生きているだけで価値がある。何かを成し遂げなければと思う必要はない』だとかいう言葉に、「そうだよな。そうかもしれない」とは思っても、私の心には刺さらなかった。的から数ミリずれたところを刺激されたような、気持ち悪さがあった。
――恵まれてるのに死にたいなんて、理想高すぎじゃない? 死ねばいいのに。
――ごめんなさい。死にたくないです。お願いします、殺さないで。
死にたくないのに死にたいと嘘をつき、死にたいのに死にたくないと嘘をつく。葛藤を気取られないように、平静を装って周りにも自分にも嘘をつく。「死」と「生」を交互に願うことで自分が削られていく。できればこんな生き方はしたくない。でもこれ以外の方法を知らない。
視線を感じて顔を向けると、トモミが私をじっと見つめていた。
「やっぱり顔色悪いよ。帰った方がいいんじゃない?」
心配そうなトモミに向かって、柔らかな笑みを作って見せる。
「大丈夫だよ。お腹いっぱいで眠いだけ」
ほら。また、呼吸するように嘘をついた。
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