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授業が終わり、ぼんやりしていると、トモミが話しかけてきた。
「お腹痛いの?」
トモミの視線の先は、私の下腹部で、そこには私の右手があった。無意識のうちにさすっていたらしい。
「そんなことないよ。大丈夫」
気恥ずかしくてとっさに手を離した。ショルダーバッグを取り、紐の部分を頭からかぶる。左肩に紐をかけて立ち上がると、鞄がずり落ちそうになった。右手でおさえようと腕を上げると、長袖のチュニックの袖が重力に負けて肘まで下がった。
「ヒカリ」
右手首をトモミに掴まれる。驚いて顔を見ると、とても怖い表情をしていた。
「えっ。何?」
「これ」
声を抑えたトモミが反対側の手で指差したのは、肘のあたりだ。目をやると、赤紫色の歯形が二つついていた。
血の気が引いた。すっかり忘れていた。昨日、訳もなくそわそわして眠れず、泣きながら強く噛んだことを。忘れていなければ、こんなに袖口の広い服は着てこない。
「何でもないよ」
私は左手で右側の袖を伸ばした。でも、右手はトモミに固定されているから、左手を離した瞬間、袖が落ちていった。
「何でもないわけないじゃん!」
トモミの手に力がこもる。
「ヒカリ。死なないで」
「痛い」
「ごめん」
トモミが手を離した。私の右手首は指の形に白くなっていた。それも一瞬で、すぐに他の場所と同じ色に戻る。私は右手をゆっくり降ろした。
他のゼミ生は、興味津々という視線を寄越しつつも、教室を出て行く。
――よくこんな人が多いところで、「死なないで」なんて言えるな。てか、私が自分でつけた傷だって決めつけたな、こいつ。まぁその通りなんだけど。
「ウチ、昨日たまたま見たんだ。リスカとかする子のインタビュー。その子、噛み癖もあるって書いてあって……ほら、これ」
スマートフォンを数秒操作し、こちらに向けてくる。受け取ると、写真が目に飛び込んできた。髪の毛が長い、顔にモザイクがかけられた人のバストアップ写真。記事をスクロールして眺める。
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