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暗くて冷たくて、わびしくて、陰湿で、煌びやかな表舞台とはかけ離れた地下牢。
「ど、うして」
辛うじて絞り出した声が陰湿な地下牢に響き、疑問の形を取る。
麗子は思う。
どうしてこんなところで、前世を思い出してしまったのだろう、と。
体の下にあるのは硬く冷たい床。陽光は射さず、代わりの光源はわざと明度を落とされた魔具のみだ。
白くきめの細かい肌。くるりとカールした長いまつ毛に縁どられた瞳。細く美麗な眉。形のいい唇。豊満な二つの果実に折れそうなほど細い腰、まろやかな臀部。
かつては豪奢なドレスを纏っていた彼女の肢体には、ぼろ切れ同然のワンピース、首には、きらびやかな宝石の代わりに犬のような首輪。手足には金属の枷が嵌められ、床に打ち込んだ杭に繋がれていた。
麗子だったころ、読んでいた小説に出てくる悪役令嬢イザベラ。
今の麗子はそのイザベラだった。
「ううぅ……」
だが何故、今このタイミングなのか。
世の中に数ある悪役令嬢ものの物語なら、ある日前世の記憶が蘇り、破滅ルートを回避すべく奮闘するのに。
すでに破滅ルート真っただ中で思い出したところで、どうしろというのか。
もうどうしようもないではないか。
「……こんなことなら、目覚めたくなかった……」
押し寄せる絶望感に、涙が一筋つう、と流れる。
前世の麗子も美人だった。何人もの男に貢がせ、金がなくなれば容赦なく振った。そうして振った男の一人に刺されて死んだ。
転生しても性根は変わらなかったらしい。イザベラは蝶よ花よと育てられ、贅沢三昧。我儘放題。思い通りになるのが当たり前。
そんな時、ヒロインのアメリアが現れた。イザベラは、純朴そうな笑顔で幼少からの婚約者である王子に近付き奪ったアメリアを、当然のように疎んだ。
ありとあらゆるコネと金を使い、アメリアを陥れようとした。ところが王子とアメリアの仲を引き裂くどころか、イザベラは激怒した王子に婚約解消をされた末、奴隷落ち。
取り巻きの令嬢たちも、王子以外にキープしていた公爵家の子息も、全てがヒロインに寝返った。
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