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信頼していた者に裏切られた。
屋敷の書斎でデスクワークに勤しんでいたダンディな吸血鬼は、この上ない怒りに身を震わせている。
事の真相を確かめるべく、容疑者の使用人を呼び出すことにした。彼らが来る前に、山積みにされた書類をデスクの端に退ける。両手を合わせてデスクに肘をつき、不安に駆られて速まる心音を落ち着かせることに専念した。
しばらくすると、ノックの音が聞こえた。深呼吸をして、デスクから肘を離す。腕を組みながら椅子の背もたれに寄りかかり、入るように促した。
「失礼いたします」という声とともに、3人の男が姿を現す。血を思わせる赤の瞳と、鋭く尖った長い八重歯。彼らは私同様、吸血鬼だ。
使用人たちは横並びになり、頭をたれて跪いた。
「キミたちに聞きたいことがある」
オールバックに固めた前髪をひと撫でしてから、デスクに置いていたグラスを一瞥する。中には赤黒い液体が入っていた。
「誰だ。私のグラスにトマトジュースを入れたのは」
仕事終わりの1杯は、人間の血と決めている。これはルーティーンだ。それを乱された挙句、トマトジュースで代用するという小癪なカモフラージュに腹が立っている。
彼らは優秀で、私への忠誠心が強い。私も彼らを信頼していたからこそ、口に入るものに関しては彼らに任せていた。
ちなみにこれがトマトジュースと気づいたのは実際に飲んだ後だし、意外と美味しかった。でもそんなこと言えない。
「もう一度聞く。このグラスにトマトジュースを入れたのは誰だ」
しかし、これは由々しき事態だ。この中に裏切り者がいるのだから。
目の前の3人をジロリと見て、彼らの反応を待つ。
3人が同時に手を挙げた。
ん?
ああ、なるほど。
3人は共謀していたということか。
眉間にしわを寄せながら、彼らを眺めた。何の躊躇もなく、指も肘もピンと伸ばしている。
そんなにハッキリと意思表示されたら、おじさん傷つくよ……
ていうか、俯いたまま挙手って体勢つらくない? そもそも挙手制にした覚えないし。いいよ。キミたちの気持ち、もうわかったよ。
「手を下ろしなさい」
指示すると、彼らはゆっくりと手を下ろした。
なんだか違和感がある。
よく考えたら、トマトジュースを注ぐのに3人もいらない。
……まさか3人がかりで注いだ?
私は迂闊にも、1つのトマトジュースパックに3人が手を添えて同時に注いでいるところを想像してしまった。
うわ、想像したくなかった。しなきゃよかった。
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