余興のトマトジュース

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 もしかしたら、見落としている真実があるのかもしれない。詳しく追及する必要がある。 「では、聞かせてもらおう。トマトジュースの経緯を」 「ご主人様、よろしいでしょうか」  何という即レス。向かって一番右の使用人――アルファの声だ。スケジュール管理や状況把握が得意で、私への報連相はだいたい彼から来る。  発言を承諾すると、アルファは顔を上げ、謝罪を一言添えてから切り出した。 「そちらのトマトジュースは、私が愛飲しているものです。テンションがハイになった勢いで、ご主人様のグラスに注いでしまいました」 「そのときキミは何をしていたんだ?」  理解できない。どういう気持ちで注いだんだろう。 「好きなものって勧めたくなるよな、わかる」  アルファの隣にいる使用人――ベータが、急に共感してきた。普段は言葉数が少なく、冷静沈着。そんな彼がこんなふうにフランクに話しているところは初めて見る。 「ですがご主人様。彼は嘘をついております」  ベータは顔を上げて訴えた。  やはりな。私情を挟むだなんて、真面目なアルファらしくないと思っていたんだ。  って、え? なに?  キミたちグルじゃなかったの?  こちらの動揺をよそに、ベータが淡々と続ける。 「そちらのトマトジュースは、トマトの味をした血でございます」  ちょっと何を言ってるのかわからない。 「……その血はどこで入手した?」  どちらかと言うとアルファの時より説得力のない話だが、念のため確認する。 「トマト頭の妖精が冷蔵庫に住み着いておりましたので、数匹捕獲し、握り潰しました」 「それはただのトマトだ」  彼はトマトで幻覚を見たに違いない。  ある意味ホッとした。あれが血だったら私の味覚が疑われるところだった。  しかし、冷蔵庫でそんなイリュージョンを見てしまうくらいに疲れていたとは、仕事配分を間違えていたようだ。ベータの仕事量を減らそう。  思わぬところで反省点が見つかった。 「いえ、本当に妖精が…ヴッ」  頑なに否定しようとするベータが、突然苦しそうに歯を食いしばった。 「ベータ!」  アルファは焦った様子で、ベータの肩を抱えて体を支える。ベータの鼻から血が流れていた。  な、なに? これから何が始まるの?  言葉を失い、困惑するしかなかった。  こちらの気持ちを察したのか、アルファが頭を下げながら謝罪する。
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