余興のトマトジュース

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「ガンマ、知っているだろう。私はいつも人間の血を飲んでいるのだ。吸血鬼の血なぞ飲めるわけがない」 「普段お出ししている血、我々のですよ?」 「は?」  不快感で眉間に寄っていたしわが、別の意味で深まった。彼らの話すこと全てがショッキングで、脳内ジェットコースターが止まらない。  ガンマが「どうぞ」と私の目の前にグラスを置いた。 「手の空いた時間に、血で血を洗う死闘を繰り広げています。その際に流した血を採集しているのです」 「身内でそんな物騒なことを」 「基本的にはストレートをお出ししてますが、ブレンドの日もあるんですよ」 「やめろ、聞きたくない」 「我々の血がご主人様の体内に流れていると考えるだけでゾクゾクいたします」 「頼むからそれ以上喋らないでくれ」  ガンマの頬が紅潮(こうちょう)してきている。 "変わり者" なんて、可愛らしい表現だったようだ。  こんな危ない人が至近距離にいるのは耐えられない。使用人たちのもとへ戻るよう促すと、ガンマは了承の言葉を告げ、(きびす)を返した。  この子たちは病んでるに違いない。私はとんでもない子たちを信頼していたみたいだ。  気づけば、頭を抱えて俯きがちになっていた。これではいけないと顔を上げると、床に這いつくばっているベータが視界に入った。両手で顔を覆っており、指や手の隙間から血が流れている。 「俺、今日が命日だ……ご主人様とこんなに会話を……」 「ベータ、死ぬときは僕の視界に入らないよう頼むよ」  ガンマが元の場所へ戻りながら、やれやれといった表情をする。ベータの隣まで歩くと、クルリと方向転換してこちらを向き、跪いた。  アルファはベータに声をかけながら、ポケットからグラスを取り出す。 「安心しろ。お前の血は全てご主人様へ献上する」  そのグラスを、床にことりと置いた。 「ああ、助かる」  ベータはゆっくりと体を起こし、グラスの上に覆いかぶさる。グラスの中に血が落ちるポジションを探っている間、床に彼の血がボタボタと落ちた。  ねえ、ここ私の部屋だよ?
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