余興のトマトジュース

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 どうしよう。さっき脳内分析が終わったはずなのに、何を考えていたのか忘れてしまった。彼らが仲良しという事実しか把握できていない。  それにしても、信頼している者たちにはぐらかされるというのは、こうも複雑な気分になるのだな。  私はできるだけ表情を無にした。小さく咳払いをすると、使用人たちは顔を上げてこちらを見た。 「私はこの件をうやむやにしてはいけないと思っている。これからもキミたちと過ごしていきたい。正直に話してくれないか」  目の前の3人は、黙ってこちらを見つめている。 「最後に問う。私のグラスにトマトジュースを入れたのは誰だ」  まばたきを忘れ、使用人たちをジッと見据えた。  彼らは何の反応も示さないまま、こちらを見つめている。 「いい加減にしないか!」  (こぶし)に力が入り、衝動的にデスクの天板を叩いた。バン! と大きな音が響くと、使用人たちの体がびくりとする。 「私をバカにしているのか!? 仲良しだからと言って、お遊戯感覚で仕事に取り組まれても困るぞ!」 「ご、ご主人様」  アルファがぎくしゃくしながら即レスする。 「確かに我々は連れションをする仲ですが、決してお遊戯感覚で取り組んでおりません」 「連れション? 今度、私を誘ってくれても構わないぞ」 「いえ、それはちょっと」  何それ傷つく。  しかし、ようやくわかった。  私の信頼は一方的で、3人からしたら馴れ馴れしい迷惑なおじさんだったということだ。彼らがこうして嘘をついているのは、()さ晴らしといったところか。  我にかえり冷静になると、今度は胸が締めつけられる思いに駆られた。 「……すまなかった」  私は今まで勘違いしていたようだ。  デスクに肘をつき、手で顔を覆った。  彼らの目を見て話せる気がしない。自分がどんな顔になっているかわからないが、この顔を見せてはいけないことだけわかる。 「私はキミたちを家族同然のように愛していた。しかし、キミたちは違ったようだな」  この3人を頼りすぎていたのかもしれない。働かせすぎて、頭をおかしくさせてしまったのかもしれない。これは私の責任だ。 「キミたちが望むなら、ここを去ってくれて構わない。働いてもらった分はすぐに支払うから安心してくれ」  覚悟を決めて告げるが、誰も話さない。誰も動かない。ただ沈黙している。  嫌だ。本当は離れてほしくない。  アルファは報告しに来るたび、私の身を案じた言葉をかけてくれた。ベータは私が仕事に追われていれば進んで手伝ってくれたし、ガンマに仕事の相談をした際に "いつでも頼ってほしい" と言ってもらったことがある。  彼らが私に向けていた笑顔が、すべて嘘だったと思いたくない。
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