16/39
前へ
/41ページ
次へ
いっこうに泣き止まなくて、正直困った。 まともに人と関わってこなかったことが敗因だろう。どんな言葉をかけたら笑ってくれるのか、ぜんぜんわからない。 白いベッド。ひとりきりの無機質で薄暗い部屋。付いていないテレビ。泣き顔の彼女。 「……俺、どうしたらいい」 堪えらきれなくなって頼るように問いかけると、藤宮守寿は両腕を広げた。 「じゃあ、ぎゅってして」 「…は?」 思わず後ずさると、彼女はぶふふと笑い出した。 「いやここで笑うのかよ」 「直矢くんが真っ赤な顔で照れるからでしょ」 「おまえだってあの時真っ赤な顔してたからな」 「それは、しょうがないでしょ。同じ気持ちだったこと、今までで一番うれしかったんだもん」 じゃあなんで。 その言葉はなんとなく声にできないまま飲み込んだ。 「で、ぎゅっとしてくれないの?」 「…退院したらな」 「じゃあがんばる。今までで一番がんばるよ」 今までで一番って言い過ぎじゃね。どんだけだよ。 だけど俺にとっても、今までで一番の時間だった。 「うん。俺が応援してやるよ」 「ぶふふ。それは頼りがいがあるね」 「揶揄ってんだろ」 なんでもいいや。どうでもいい。 閉め切られていたカーテンを開けると、彼女はまぶしそうに目を細めた。 「久しぶりに見た、青い空」 しばらくして、彼女の家族から病名を聞いた。幼い頃からずっと患っていて、治ることはないと知った。 ピアノは、入退院の繰り返しで満足な練習ができなくなってやめたらしい。 プレハブ教室の図書室や図書館、パソコン、時には彼女と仲が良い看護師を捕まえて、俺もその病気のことを知っていく。 彼女が俺を避けたこと。 それでも、今は俺の傍にいてくれること。 明確な言葉や定義は何もなかったけれど、その理由は痛いほどに伝わってきた。 ・ ・ ・
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加