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喉が渇いた。 ほっといてそのまま死ねるならそうするかもしれない。 少しだけ近づくと彼女から腕を差し出してきた。捕まえようと手を伸ばせば、それは重なることなくすり抜ける。陳腐な映画のワンシーンかよ、と冗談にしては面白くないことを思う。 ぽってりと、言葉を置いていくようなしゃべりかたをする彼女は、やっぱり、と言って笑った。 「え、なに……おまえ、幽霊ってこと?」 「そうみたい。すごいでしょ」 すごいでしょって、自分でも信じられないみたいな顔してたくせにすぐ開き直って自慢げにするの今はやめろよ。本当、冗談じゃねえよ。 「こっわ!!!俺がホラー苦手なこと知ってるよな!?イヤガラセかよ!」 触れないとか本物じゃねえかよ。ふざけんなよ。前に無理やりホラー映画見せられたときと同じくらいイヤガラセみを感じる。 「しかたないでしょ」 何がしかたねえんだよ。 何してんだよ。なんでいるんだよ。幽霊ってなんだよ。今までの俺たちの時間は、なんだったんだよ。 「わたしだって成仏する気満々だったのに……直矢くんが引き留めたんでしょ」 追い詰めるどころか、責めるような台詞。 「いくなよって。直矢くんがそんなこと言ってくれるとは思わなかったからうれしかったよ」 にっこり。本気でうれしそうな笑顔。のん気で能天気なやつって死んでものん気で能天気なんだな。 俺のせいかよ、これ。 「でも直矢くんのせいだから、責任とってね」 「…責任?」 「そう。これからもずっと傍にいて。今までみたいにだよ」 生きていても、死んでいても、藤宮守寿は俺のことを振り回すのがこの世で一番得意らしい。 だったら死ぬなよ、と、こっちも責めたい気持ちになった。
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