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「入海」
口うるさい風紀委員のことを無視して体育をサボってプレハブ教室に向かっていると、その途中の渡り廊下で佐原七重に話しかけられた。
「サボり?」
「そーだけど」
「ふうん。守寿がいたら引き戻されそうだね」
まあ、隣にいるんだけど、触れられないならこっちのもんだよな。
「そっちは気に入ってたピアスやめたんだ」
派手な制服の着こなしと化粧。大ぶりのチェーンピアス。「かわいいから学校じゃなくてわたしと遊ぶときにつけてきてよ」って藤宮守寿は八方美人な口ぶりでよく佐原を注意していた。
「うん。もう守寿に会う日にしかつけないって決めたの。えらくない?それなのにあんたはサボりかよ」
「そっちはサボる気ないなら早く校庭行ったほうがいいんじゃねえの」
親切で言ったつもりが、佐原は苛立ちを顔に出した。
めんどくさそうな雰囲気を感じて背を向ける。…こいつも、俺と同じ。
「ねえ、入海」
俺だけが特別なわけじゃない。
「あんた……守寿がいなくて、大丈夫…?」
藤宮守寿は誰にだって優しくて、人懐っこくて、純粋で、真っ直ぐで、八方美人もおせっかいも長所にしてしまう。そんな彼女がもういないこと、誰もが懸命に受け入れようとしている。
大丈夫なわけねえよ。
だから、まだここにいるんだろ。
その問いかけに答えることはできなかった。
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