サンドイッチ

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「今日の朝はね、ゆで卵とサンドイッチ食べたよ」 僕の手を握ぎながら、アイドルの女の子がそう答えた。 何のサンドイッチですか?質問する。 「ハムだよ」と笑顔を絶やさず答えてくれる。 僕はとても嬉しい気持ちになる。 テレビの前でずっと応援してたアイドルの女の子と握手できて、しかも話もできた。 そして何より、少しだけ憧れの人の生活感に近づけた気がした。 握手イベント会場を出た僕は、ハムのサンドイッチを探しに出かける。 周りが引くぐらいの形相だったと思う。 とりあえず近くのコンビニのサンドイッチコーナーを見る。 そこにはたまごサンドイッチが残っていなかった。 他のコンビニも見てみる。 そこはサンドイッチ自体が売り切れだった。そ れからも何件もコンビニを梯子するけど、どこにもハムのサンドイッチはなかった。 誰かがハムのサンドイッチを買い占めたのかな? 僕に1つだけでいいから、誰か分けてくれ。 そんな思いで歩いていると、サンドイッチ専門店を見つける。 「ハムのサンドイッチはありますか?」 「ああ〜ちょうどさっき売り切れてしまいました」と店員さんが教えてくれる。 これはもう本当に、誰かが先回りしてるとしか思えない。 誰が一体こんなことを。 僕は途方に暮れて、公園のベンチに腰掛ける。 うなだれて、目をつむる。疲れた。 「ごめんな、悪気があったわけじゃないんだ」と声が聞こえる。 目を開けて左側を見る。 そこに座っていたのは、どこからどう見てもサンドイッチだった。 普通のサンドイッチが僕に話しかけていた。 「一応言っておくと、具はハムだぞ」と挟まれてるものをペロンと見せてくれる。たしかにピンク色のハムだ。 「お前がすっごい怖い顔で向かってくるのが見えたから、逃げたんだよ。   そういうの俺たち分っちゃうから。そういうのに敏感なの、俺たち」とジェスチャーを交えながら主張してきた。 「怖がらせる気はなかったんだ。どうしても食べたい衝動が抑えきれなかったんだ」 「まあ、そういう時ってサンドイッチにもあるけどさ、想いが強すぎると、相手はそれに耐えられなくなるんだよ。それだけは知っておいた方がいいぜ」 「覚えておくよ、教えてくれてありがとう」ハムのサンドイッチから人生の哲学を教わった。 「いいってことよ」 僕とサンドイッチの間に無言の時間が流れる。 「食べていいぞ、待たせたな。」とサンドイッチが口を開く。 お言葉に甘えて、横にいるハムのサンドイッチを手に取る。 僕は口いっぱいにハムのサンドイッチを頬張る。 言葉にできない。というか言葉にしたくない。この感動は。 だけど、あけて言葉にするよ。 「こんなに美味しいハムサンドイッチは食べたことがない」 そんなありふれてるけど、僕にしか出せない言葉を、歩いてきた道に投げていた。
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