恐怖レポート

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恐怖レポート

「……ということで、次の恐怖レポートはこのアパートを題材にする」  ホワイトボードに書かれた「幽霊アパート」の文字をプロデューサーである冴子さんがバンと叩いた。とても嬉しそう。目がキラキラして頬がピンク色に染まっている。 新米の僕は追加資料をみんなに配りながら、もうこの恐怖レポート止めにして欲しい……。としょぼくれた。  恐怖レポートとは、冴子さんが二年前からプロデューサーとして携わっている番組で、深夜十一時からなのに、視聴率が平均十%もある人気番組だ。CGは使わず、徹底的な取材による根拠の提示と、怖がらせようと作り過ぎない感じが視聴者に受けているらしい。  資料として配った新聞記事には『幽霊? アパートに現れた謎の女』の見出し。事件のあらましはこうだ。  三階建てのアパートのニ〇五号室で事は起こった。  当時、部屋に住むAさん(男性)が友達のBさん、Cさんと部屋で酒盛りをしていた。すると窓の外を右から左へ何かの影が横切ったのが見えた。まず気づいたのはCさん。始めは目の錯覚かと考えたが、しばらくすると、また右から左へ黒い影が移動する。まるで建物の回りを誰かがグルグル走っているような影に恐怖を感じたCさんがAさんとBさんに伝え、勇敢なAさんが窓を思い切って開けた。でもベランダには誰もいない。ホッとした途端、背後で叫び声が聞こえた。  振り返ると、ドアにはめてある明り取りの磨硝子に女性のシルエットが映っている。 三人が固まってドアを見ているとそのシルエットは両手を上げ、窓をバンバン激しく叩いた。 次にドアノブがガチャガチャと回される。  パニックになったAさんとCさんが窓から地面へ飛び降り骨折。 部屋に残ったBさんが電話で警察を呼び、さらに救急車もやってくるという大騒ぎとなった。  三人の話を聞いた警察官がアパートの周辺を捜索したが、それらしき女性を発見することはできず詳細も不明。 目撃者が三人。骨を折るという重傷者も出た。  警察沙汰にまでなったことで、新聞記事になったらしい。
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