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アスファルトに伸びた影は、まったく動かない。まるで僕を驚かそうと待ち構えているようだ。
もしかして御影さん? イタズラでもするつもりか? と考えてハッとする。僕は携帯を確認した。夕方の四時。
あの影……おかしくない?
アパートの正面玄関は南側を向いている。僕は西側をぐるりと回ってきた。太陽はもう西へ傾いて、僕の背後にある。周りの建物はコの字にアパートを囲んでいる。つまり、駐輪場に人がいたとしてもアパートの影になりあんな影は絶対にできない。
じゃ、じゃあ……アレ……は?
恐怖のあまり、僕は腰が抜けてしまった。カメラを構えたまま地面にへたり込んでしまう。膝頭がガクガクブルブル震える。携帯をなんとか操作して御影さんに電話をかけた。なのに、ずっと出ない。
影がゆらりと動く。
い、いかん。行けるわけない……。
胴体だけの人影に手が二本生え、それはバンザイするように影の頭上に伸びた。まるで踊っているみたいに、ゆらゆら揺れて胴体がクネクネうねっている。
あれは影じゃない。日陰の中でもっと黒いものが蠢いてる。
力いっぱいまばたきしても、手で目を擦っても消えない。
ゆらゆらゆらゆらゆらゆら……。
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