遅刻ギリギリ

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意識して見なくても、それは頭の中に流れ込んでくる映像だった。 両親がなにか話をしている。 あたしに話しかけている。 その声が途端に聞こえなくなっていた。 坂道が近付くにつれて足は重たくなってきて、もっと近づくと体全体が重たくなってくる。 これ以上歩けないと思い、あたしはついに立ち止まってしまった。 立ち止まり、呆然として坂道を見つめる。 両親がまたあたしになにか話かけた。 声はただの音になって、あたしは認識することができなかった。 坂道を見つめていると心臓がドキドキしてきた。 あたしは自分の胸に手を当てる。 やっぱり、普段の倍くらいの速さで動いている。 足元が危うくなり、立ち止まっているのに、なにもないのに、よろけてしまう。 咄嗟に父親が手を強く握ってきた。 あたしも握り返そうとしたけれど、上手く力が入らない。 重たくなった体はそのままズブズブとコンクリートにめり込んでいってしまいそう。 幼いあたしは本当に自分がコンクリートの中に入ってしまうと感じて恐怖した。 スゥっと、全身が冷たくなっていくのを感じる。
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