遅刻ギリギリ

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「どうしたの?」 お母さんの声が、ようやく声として認識できた。 目の前が暗くなっていくのと、体が横倒しに倒れるのはほぼ同時だった。 「もう、この街にはいられないか……」 あたしの体を抱きかかえて、お父さんがそう言ったのが聞こえたような気がした。 ☆☆☆ 今日も学校か……。 あたしは少しだけ憂鬱な気分で空を見上げる。 嫌みなくらい晴れ渡った空はあたしの気持ちなどきっと知らない。 「行ってきます」 リビングにいる母親に声をかけてのろのろと玄関から出る。 途端に太陽の光に目を細めた。 そして大きく息を吐き出す。 太陽の光を浴びるとどうも体が重たく感じて、ため息が出てしまうのだ。 まるで自分が吸血鬼にでもなった気がして、ふっと笑う。 スマホで時間を確認すると、今日もギリギリの登校時間だ。 「行かなくちゃ」 あたしは自分に言い聞かせるように呟いて、重たい一歩を踏み出すのだった。 あたしが通っているのは地元の天城高校。 2年B組に在籍している。 成績はいつも中間あたりで、可もなく不可もなく。
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