空と森とスニーカー

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 五月に生まれたから皐月。  そう名づけたのは父だ。  彼が生まれた日、病院を出ると沿道はさつきの花が満開だったらしい。役所に届ける期限までに他の名前が思いつかず、結局皐月になった。  目覚めて、ベッドの中で天井を見ていたら、その話を思い出した。朝だ。  小学校の頃、名前の由来を調べてこいという宿題があり、母親から聞かされた。寝起きでぼんやりしているときというのは、思いがけないことを思い出したりする。  今日の夢はなんだっけ。  皐月は心地よい布団の温度にくるまりながら、考える。  楽しかったな。夏生と……。 「サツキ!早く起きなさい」  うとうとしかけたところへ、階段の下から母親の大声が聞こえた。  朝だった。  皐月は飛び起きて時計を見た。家を出る15分前だ。  布団を跳ね除けベッドを出ると、素早く制服に着替えた。カバンをつかみ、部屋を出かけたところで携帯を忘れ一度戻り、階段を駆け降りる。 「皐月、おにぎり」  リビングに駆け込むと、息子の行動を把握しきっている母親にすかさず声をかけられた。ダイニングテーブルの握り飯を頬張りながら聞く。 「姉ちゃんは?」 「もう行ったよ」 「ほんな時間?」  野菜ジュースで流し込んだ。無茶苦茶な味の取り合わせだ。 「はみがき!」  洗面所に走り、最低限の準備を整え、靴を履くのもそこそこに玄関を出る。自転車に飛び乗り、ダッシュで夏生の家に向かった。 「おはよ!」  息を切らしてたどり着くと、夏生はもう家の前に自転車を停め、待っていた。  庭先のモクレンの花が、まだわずかに白い花を残していた。ひとひらが目の前で枝を離れる。舞い落ちるのを目で追った。 「ハネてる」  夏生が言った。 「え」
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