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夏生は中学の頃から結構モテた。元々背が高かったし、勉強も割とできる方だった。ちょっと言葉少なでクールに見える雰囲気が、女子には人気らしいのだ。皐月にしてみれば、夏生は全然クールではない。
それなのに今まで、夏生が女子と付き合ったことはなかった。理由を聞くといつも、皐月といる方が面白いから、と答えた。皐月もイメージできないものの、恋愛には人並みに興味がある。自分が先に彼女ができたら、夏生はどうするだろう。
風が通り、カーテンがそよいだ。夏生のこめかみにかかる髪が揺れている。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、話は打ち切られた。ざわつく教室で、それぞれが机を動かし始めた。
「なあ上野、藤田って今日、機嫌悪い?」
岡田が皐月に耳打ちする。
「いや?そんなことないと思うけど」
「ふーん」
腑に落ちない表情で、岡田は皐月のすぐ後ろの自分の席に着いた。
否定はしたが、確かに夏生は不機嫌だった。
離れた席の夏生を振り返った。夏生は次の授業の準備をしていた。教科書を開き、パラパラとページを流す。裏表紙が右手の親指を離れた時、皐月と目が合った。いつもの、俺はここにいる、と言うような夏生の視線が返ってくるつもりでいたが、そうではなかった。夏生は他人には気づかれないほどに、小さく息を飲んだのがわかった。
皐月が反応できずにいるうちに、夏生は後ろの席から呼ばれ、そのまま背を向けた。
皐月も前を向き、教科書を取り出す。
以前にも似たようなことあった。一緒にいながら、見えない隙間があった。いつの間にか気にならなくなり、忘れてしまっていた。
単色の明るい画面に、知らない間に暗色が滲み出てしまったようだ。
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