空想未来少年リターンズ

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 少しだけ考える。  息子は『何だっけ?』と言った。  過去形だった。  『ヘロドトスって何?』ではない。  つまりは、過去に息子はヘロドトスを経験している、ということだ。既にヘロドトスは通った道なのだが、何かのきっかけで思い出しそうで思い出せない、そんな口振りだった。  となると、所詮10歳の子供が今までに見聞きした記憶の中に存在するものだということで、言ってしまえば、大したものではないということは容易に想像がつく。おそらく、ゲームや漫画の中の何かだろう。息子はいつもゲームや漫画を読んでばかりいたはずだ。  言葉の響きとしては地名、いや人名だろうか。そう思うと、何処となく中盤あたりで主人公に伝説の武器を与える役目を負って、50年くらい辺境の地で待ち続ける老賢者みたいな感じの響きがする。  きっとそうだ。そうに違いない。であれば、僕が息子に向ける言葉はただ一つ。 「そんなくだらないことより、勉強しなさい」  ばっちり決まった。  これには妻も息子も、ぐうの音も出ないはずだ。 「はぁい……」  息子は夕飯をそそくさと食べ終えると、学校の宿題をしてくる、と子供部屋に向かった。いつになく聞き分けが良い。  息子が部屋に戻ったことを確認し、僕は急ぎスマートフォンでヘロドトスを調べてみる。 『ヘロドトス……古代ギリシアの歴史家である』  ……驚くほど学問用語だった。
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