風のハープ

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「おれはこんなことをしている人間じゃないんだ。そうさ、お城で宮廷楽長さまになって楽団を指揮してたっておかしかないんだ。それがあいつとくっついて、おまえができちまったから、こんな目に。……いや、今だって立派なもんなんだ。おれと、このハープならな。だのにこんな田舎じゃ誰も音楽がわかっちゃいない」  いっしょに安くて強いお酒を飲んでいた行商人は、繰り言に聞き飽きて居眠りを始めてしまっていました。  固いパンと薄いスープだけの夕食をすませた男の子は、申し訳なさそうにうつむいて座っていました。  酔いつぶれた父親を抱きかかえて、今夜の宿をどうやって探そうかと考えながら。
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