マリアの微笑

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マリアの微笑

 そもそも、あいつの存在の噂を耳にした時から、酷く気にくわなかったのだ。 俺の通う音楽学校「松朋(しょうほう)音楽学院」の高等部に、あいつが、ピアノ科一年の特待生として入学してくるという。  松朋は国内有数の名門故、特待生など採らない。 なのにあいつは、事もあろうか、我が日本が誇る大指揮者「世界の千堂」こと千堂(せんどう)(あきら)の特別推薦で入学を決めたらしい。 しかも、中等部から大学院まで生徒のレベルが特別に高い時にしか行われない、5年に一度とも言われる「松朋音楽学院内コンクール」に、今年度最年少の高等部一年生として、今年参加するというのだ。  もっとも俺とて、高等部へ主席で進んだあいつと同じ一年生の年に、4年ぶりに行われた同コンクールで優勝し、天才と謳われている。  俺は、日向(ひゅうが)遙希(はるき)。ヴァイオリン専攻で、この春には高等部三年になる。 茶道「宗庵流(そうあんりゅう)」家元にして、「日向ホールディングス」の本家としても知られる家の生まれの俺には、歳の離れた兄二人に姉一人がいる。
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