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月光
ドアを閉めた途端に包まれた。
彼の人の温かい腕の中。
心臓の音だけが響く。
それは幾度目かの夜。
部屋の電気をつけようとしたその右手を、背後から掴まれた。
「せ、先輩?」
声が震える。
そのまま抱き締められて。
耳元に熱い吐息。
日向(ひゅうが)の息遣いまで聞こえる。
けれど
ふわっ
急に躰が軽くなった。
そう思った時には、真璃亜は部屋の隅のベッドの上にいた。
「遙希せん、ぱい……?」
おそるおそる呟く。
日向はベッドの傍らに立っていた。
「きゃっ……!」
思わず真璃亜は目を閉じた。
日向が突然、着ていたシャツを脱ぎ捨てたからだ。
「真璃亜」
声がする。
真璃亜はまだ目を固く閉じたままだった。
「おいで。真璃亜」
怖々に瞳を開けば、日向が右手を差し出し真璃亜を呼ぶ。
怖い……。 恐い……。
なのに、どうして。
真璃亜は操り人形のように、ふらふらと歩を進めていた。
一歩一歩前へと進み、ただ蜜に誘われる蝶のように。
いや、日向という蜘蛛の巣に身を投じた蝶のように。
それは、絡め取られ、もはや逃れることは出来ない。
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