8人が本棚に入れています
本棚に追加
あのアソシアでの忘れられない初めての夜から、どのくらい経てばこの情景にも慣れるのだろうか。
今の真璃亜にはまだ見当がつかない。
「ん……」
こうやって口唇を塞がれ、甘い吐息を発して、自分が自分ではなくなっていく。
声ともつかぬ声が漏れそうになる。
そんな自分は、やはり自分ではないようだ。
服の上からでも感じるのに、素肌を晒せばもう、広い大海に漂う小舟のように、行き着く岸は遙か遠い。
日向は意地悪だから、なかなか許してはくれないから。
それでも今夜も肌をあわせる。
多分、今宵の月が東の空へと隠れるまで。
ああ、月の光がとても。
綺麗……。
窓のカーテンが微かに開いていて、三日月が見える。
暗い部屋の中、月光が差し込む。
不意に真璃亜の脳裏に、ドビュッシーの「月の光」の旋律が浮かんだ。
ピアノが弾きたい───────
こんな時でさえ、そんなことを思う自分は不思議、と真璃亜は思う。
躰は過敏に日向の動きに反応するのに、意識だけがふとした瞬間にトリップする。
最初のコメントを投稿しよう!