マリアの微笑

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 家元を継ぐのは長兄、と決まっている。下の兄は事業を担う次期経営者のレールを敷かれ、唯一女性の姉は、ひたすら良き妻・良き母になるべく教育された。  そして、一人くらい芸術家がいてもよろしいわね、という母の実に気まぐれな発想の下、幼少時から英才教育を施された結果、今の俺がある。  実際のところヴァイオリンの腕前はというと、昨年、国内最高峰の日本音楽コンクールに第一位優勝し、国内コンクールの賞は全て総なめだ。  次にコンクールを受けるとしたら、チャイコフスキーかロンティボーか。いずれにせよ、最難関の国際コンクールだ。 ちなみに学院では、二期連続・生徒会長も務め、教授及び生徒共に信頼が厚い。  特に女子達の視線を集めて常に華やかな取り巻きに囲まれている。  その俺が、たかだか十五歳の女生徒(コドモ)にひけをとるなど俺の自尊心が許さない。  しかし、表の俺の顔はいたって温厚だ。  笑顔を絶やさず、誰にでも分け隔てなく柔らかな物腰で接する。激昂したりなどしない。特に弱い者には手を差しのべ、何より周囲の空気を大事にする。
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