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表向きはいつものように穏やかなまなざしで返すと同時に、俺は鋭く小野を値踏みした。
身長158㎝、体重45㎏といったところだろうか。
いかにも中等を卒業したばかりという感じで、そそられるものはないが、透けるように白い肌とは対照的に紅に近いピンク色の愛らしい口唇が目をひいた。
そして何より、まるでびっくりした時のような今にも零れ落ちんばかりの大きなすみれ色がかったその瞳に、俺は不覚にも吸い込まれそうになった。
美人や可愛い女子など見慣れているこの俺が!
そう、控えめで大人しそうな佇まいをしていながら、小野には華があるのだ。
しかし、これは面白そうではないか。
俺はすぐに自分を取り戻した。
この純真無垢な「天才少女」を泥だらけに傷つけて、俺の前に跪かせる。それは久々のこの上ない快楽だ。
無論、コンクールでも負ける気など全くない。
むしろ、世界の千堂明お墨付きの小野に勝ってこそ、俺の真の実力が証明されるということだ。
それは即ち、俺のヴァイオリンが世界に通用するという何よりの証である。
それは俺の望むところでもあった。
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