マリアの微笑

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 俺は、小野に用心深く近づいていった。  自家用車通学している俺は、慣れない小野のフォローをするという名目で、毎朝わざわざ、小野が一人暮らしを始めたマンションのエントランスまで迎えに赴いた。  当然、他の女生徒達は一様に、にわかに気色ばんだ。   俺が一人の特定の女子だけを車に乗せて通学したことなど、今まで一度もなかったからだ。 お陰で小野は俺の思惑通り、瞬く間に嫉妬の矢面に立たされることとなった。 それは、まだ四月の或る朝のことだった。 「あなたね。あなた、日向先輩の一体何なの? 一体、どういうおつもり?」 「日向先輩はお忙しいのよ。日向先輩がお優しいからって一緒に車通学なんて、何様なの!?」 小野がマンションの前で数人の女子たちに囲まれている。俺は黒い笑みを押し隠し、声をかけた。 「君たち。これは一体何事だい?」 「日向先輩!」  俺の取り巻きは一転、身を翻し、俺に切々と訴えた。 「日向先輩。この()が特待の新入生だからといって何も毎日送り迎えまでなさらなくても」
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