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第2話 轟々と
人もまばらな下りの電車の中、席もガラガラではあるがそこには扉の横に立ちスマホを見つめる宮元がいた。
彼はツイッターを開きあるアカウントを調べている。
検索窓には森浜 瞬の名前が。
数人の森浜 瞬が現れたが、プロフィール欄にウルフキャットを名乗るアカウントは一つしかなかった。
そのアカウントに飛ぶと二時間ほど前に最後のツイートをしていた。
「今日はCD発売イベント! みんな待ってるねー!」
今日のイベントの告知を最後にそのツイートは止まっていた。きっと今頃は握手会も終わり、ミニライブをしていることだろう。
だが、宮元は登録だけして放置していたアカウントを使いお構いなしにDMを送った。
「宮元です、久しぶりだね。なんでさっきの握手会で知らない振りをしたんだよ? もしかして忘れちゃったのか?」
と、狂人なストーカーにも思われそうな内容だが、宮本には関係なかった。
窓から見える過ぎゆく景色を眺めながら、電車の中にいるカップルのやり取りに耳を立てる。
「ねぇ? 私たちいつ結婚するぅ?」
「んー……明日結婚しちゃう??」
「本当!?」
「結婚しちゃおっか!!」
きっと二人の中では幸せなのだろう。車内に響き渡る大声でのプロポーズは無事に成功したところで宮元は自宅の最寄駅に着く。
帰り道、あの馬鹿そうなカップルのプロポーズを思い出していた。
彼にも好意を寄せる相手は勿論いる。
だが、それが仮に付き合う事が可能な相手でも今の日本では結婚する事は出来ない。
そんな事を憂いながら自宅へと戻った。
家に着いた宮元はケトルにお湯を沸かしながらテレビをつけた。日焼け止めのCMには去年のCM女王の相嶋 ヒカリが白肌眩しく映っている、
今の若い子達に大人気のその女優に宮元は微塵も見向きもしないまま、カップラーメンの蓋を開けお湯を注ぐ。
時間までスマホで彼について調べている。
しかし、まだまだ世に出たばかりの彼らの情報は乏しく知る事は容易ではなかった。
もっと知りたいという欲を空腹に換えて宮元はカップラーメンをすする。
そして、腹を満たし久々の休日を外出で満たした宮元は昼寝に勤しんだ。
何時間か経っただろう、外はもう暗くなりかけている。時刻は十九時前。
スマホの画面をオンにするとツイッターの通知が来ていた。ツイッターの画面を開くとDMが一通。
相手は森浜 瞬からだった。
彼からの返事に喜びを隠しきれない宮元だが、その内容に哀しみを露わにした。
「すいません、たぶん人違いだと思います。なので忘れてください。でも握手会に来てくれて嬉しかったです。応援よろしくお願いします」
宮元の小見山探しは突然に始まり、突然に終わってしまった。
けれども、森浜 瞬の影に宮元はかつての彼の姿を見ている。これも何かの縁かと思い、このまま応援する旨を返信した。
「そうでしたか、それは失礼しました。昔の知り合いに似ていたもので間違えてしまいました。ただせっかくなのでこれからも応援させて頂こうと思います、頑張ってください」
そして宮元はまた一人、いつもの生活に戻る。
たかが数日の出来事だったが、居なくなった人間の影を見てしまったが故にその喪失感は果てしない。
翌日の休みは家に篭り、次の日から仕事だ。
だが、彼は仕事を休んだ。
影は鋭いナイフのように宮元の胸元を深く抉っていた。
回復するのはいつになるのだろうか?
そう思いながらテレビをつけるとウルフキャットがテレビに出ていた。
宮元は森浜の事を見ては上書きするように過去の事を塗りつぶしていく。塗っても塗っても薄く滲んでは下の絵が顔を出すその過去は突如、光の様に輝き出した。
テレビではウルフキャットのメンバーの過去を掘り下げていた。そこで高校生の頃の写真が紹介されている。
皆それぞれカッコよくモテそうな顔をしている高校時代の写真、その中にやはり見覚えのある、と言うよりは見慣れた顔がそこにはあった。
学園祭の準備の時に二人でサボった時に撮った男二人が並んで写っている写真。片方の男にはモザイクがかかっている。
が、紛れもなくモザイクの男は宮元だった。
同じ写真をタンスの中から引っ張り出し見比べる。どこをどう見ても寸分狂わず一致する。
やはり彼は小見山 淳、彼が探し求めている相手だ。
宮元の小さな種火の様な自信が、再び轟々と唸りを上げて燃え上がる。
彼は再び森浜に接触する事を決めた。
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