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第3話 繋がること
宮元はツイッターを開き森浜にDMを送る。
「テレビ見たよ。あの写真って学園祭の時のだよな? やっぱりお前は小見山だよな?」
今何をしているのか、誰といるのか分からない森浜に対し疑念の気持ちをぶつける。
ほぼ確信に近い証拠を得た宮元は少しの元気を取り戻し、次の日からの仕事のために早めに寝ることにした。
翌朝、早めに寝たからかアラームよりも早く目が覚めた彼はスマホの通知に気がつきツイッターを開く。
昨夜送ったDMの返事が来ていた。
「そうだよ、小見山だよ。だからどうした? 俺が小見山だったら何なんだよ。もう関わらないでくれ」
もう関わらないでくれ、
それは宮元の心を空っぽにさせた。
その時、アラームが鳴り響く。
そう、彼は仕事に行かなければならない。
そう、そうしなければ生きていけない。
そう、彼なしで生きていかなればいけない。
服を着替え、身嗜みを整え、家を出る。
仕事場に着きいつも通り仕事をする。
ツイッターをブロックされてから一週間が経った。
飯も食べずに仕事と寝る事を繰り返す。これが絶望なのかと彼は嘆いた。
そんなある日、彼は仕事で些細なミスをした。
「おいおい、大丈夫か?」
「……大丈夫です」
「お前がミスするなんて珍しいじゃねぇか」
「そんな事ないですよ」
「そんな事ないって、俺がお前のミスを指摘するのは初めての事だぞ」
宮元はとても優秀に働いていた。
そんな彼がミスをするとはきっと一大事なのだろう。
上司は彼を昼飯に誘った。
「お前、最近全然食べてないだろ」
「……食べてますよ」
「いつも一口食べて残してるじゃねぇか」
「一口でお腹いっぱいになるので……」
「……どうした? 何かあったか?」
騒がしい食堂の中でしばらくの沈黙が続く。
宮元は大きなため息を一つ吐くと、口を開いた。
「大切な人を失くした時どうしたらいいんでしょうか」
「なんだ、失恋でもしたのか?」
「まあ、そんな所です」
「失恋してもそいつの事を好きなのか?」
「……そうでなきゃ落ち込みません」
「諦めきれないってか?」
「……はい」
ふた回り近く上の上司はニヤリと笑った。
「だったらとことんアタックしたらいいだろう。別に一回ダメなら終わりじゃねぇんだから」
「……でも」
「でももクソもねぇの。納得できないんだったら納得するまでやりゃあいいんだよ」
「そういうもんなんですか」
「そういうもんだよ、だから飯食って元気出せ。な?」
「……はい」
それからの宮元は今までのミスをしない優秀な社員へと戻った。
そして、目標を次の握手会へと定めた。
日時は次の週末。参加資格は前回同様、CD一枚につき五秒。彼はその時を待った。
握手会、当日。
相変わらず女性ファンで溢れている握手会の会場で、宮元は浮いている。
しかし、そんな事お構いなしに彼はCDの購入列に並んだ。
「どちらをご購入されますか?」
「森浜 瞬のCDを一枚」
「かしこまりました」
一枚のCDと一枚の参加券を手に入れた彼はその時間を待つ。
色々な思いを馳せている間に握手会の列はだいぶ長く出来ていた。
目の前のファンは友達同士で参加しているのだろう。誰々がカッコいい、誰々が可愛いなどと話している。
後ろのファンは大量の参加券を握り締めている。おそらく二十枚は買ったのだろう。
そんな事を考えながら彼はいよいよ自分の番を迎える。
森浜は顔を見るなり一瞬、怪訝な顔をする。
しかし、すぐにアイドルモードで両手を差し出した。
宮元はその両手を強く握りしめるが、その強さに森浜は驚いた顔をした。
そして、宮元の思いをぶつける五秒間が始まった。
「やっぱり俺はお前を忘れられない! 俺の前から消えないでくれ! 俺はお前が好きなんだ!!」
「はい、お時間でーす」
その声の大きさとカミングアウトに場内はざわついた。
係員によって引き剥がされる宮元だが、その顔はどこかスッキリしていた。
片や森浜は次の順番が来ているにも関わらず、豆鉄砲でも食らったかの様に固まっていた。
思いの丈をぶつけた宮元は会場を後にし、今日の晩ご飯は何にしようかとそんな事を考えながら買い物をして家に帰る。
そういえばこんな生活を送っていたなと、いつも通りに戻っていたことに彼は少し安堵した。
家に着き、ひと段落着く。
スマホを開くとツイッターからの通知が来ていた。
ツイッターを開くとブロックされていた森浜からのDMだった。
「なんでそこまで必死なんだよ」
「大切な人が居なくなったら必死になるだろ」
「そっか。ってか迷惑なんだよ、周りざわついてたし。ブロックすんのやめっから何かあったらここにしろよ」
長く離されていた宮元と森浜の繋がりは、今ようやく始まった。二人の物語は再び進んでいく。
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