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玄関の前に愛美が
直帰することにして近くのスーパーに向かった。
今日の仕事はやめだ。
厨房用品を扱う小さな会社の営業をしている俺は自由に直行直帰をしている。そんなわがままができるのは伯父が社長だからだ。むかしから世話になっているというのに恩返しどころか迷惑ばかりかけている。
いつものようにスーパーで見切り品の弁当を買いアパートに帰る。
二階建ての単身者向けアパート。
外階段を上がり共用廊下に立つと、部屋の前に女が見えた。
紺のガウチョパンツにベージュのブラウス、カジュアルな服装。学生だろうか。アパートには学生も住んでいた。
距離を縮めながら女の横顔に目を凝らす。
あ、全身が硬直した。手に提げたスーパーのレジ袋がカサカサと音を鳴らす。女はその音に反応した。
「久しぶり!」
まるで一年前のことなどなかったかのように笑みを浮かべて近づいてくる。愛美だ。
「あ、おう」
黒髪のロングストレートが栗色のショートボブに変わっていた。化粧にお金をかけるのはもったいないからと、ほぼすっぴんだった肌は輝くように白い。目はつねに驚いたようにパッチリしている。
愛美は綺麗になっていた。まるで別人のように。
「どうした?」
用があるとは思えないが訊いてみる。
「俊の部屋に忘れものしてたの思い出して」
俺は首を傾げた。そんなものあっただろうか。
「部屋に入ったらわかると思うから。ね、早く入ろう」
灰色の玄関ドアが耳に障る音で久しぶりの客を迎える。
いったいどういうつもりだ。
ドアが閉まるとき、愛美の懐かしい香りがした。一年前までいつもそばにあった匂い。
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