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くそガキ
翌朝。アパートから駐車場まで歩いていると直哉に会った。
「おじさん、おはよう」
汚れのない白い顔で直哉が並ぶ。
俺は直哉を無視して先を急ぐ。客から苦情があったと会社から電話が入っていた。数年前に俺が納めた食器洗浄機の調子が悪く、洗浄中たびたび止まるらしい。上得意のホテルの厨房だけにのんびりしていられない。
「ねえ綺麗な女の人に会ったでしょ」
「会わねえよ」
「おかしいな。そんなはず……。ま、いいや。じゃあね」
どんよりした俺とは対照的に直哉が元気よく走り出す。
青いランドセルが朝陽を爽快に弾いていた。
直哉は小三って言ってたな。俺もあのころは……。
「すいませんでした」
イライラした感情を腹の底に仕舞い、ホテルをあとにする。
食器洗浄機は無事に動くようになったが、不良品じゃないかと散々嫌味を言われた。
社長には連絡しておいた。苦情は社長の耳にも入っているはずだ。
少し時間を置いて午後から出社することにして喫茶店に車を停めた。
すでに今日はやる気がしない。
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