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七月八日 月曜日 プロローグ
橋本直人(ハシモトナオト)は夢をみていた。
特別散らかっているわけでもない、取り立ててセンスが良いわけでもない、ごく平凡な自室で、幼馴染みの少年と肩を寄せ合い何かの冊子を覗いている。
話し声はごく穏やかで、何と言っているのかまでは聞き取れない。だけど、視線を交わしてはこぼれる笑みを見れば、ふたりが信頼し、心を寄せ合っているのが分かる。
これは夢だ。
あまりに現実と違いすぎて、夢の中でもそうだと分かってしまうほど、直人にとって都合の良い夢。
だって本当は、ふたりはそんな関係じゃない。
幼馴染みの少年……静(シズカ)は、もう直人に対して、正面から笑いかけてくれることなどなくなってしまった。
顔を合わせれば口うるさい小言か嫌味ばかりで、ここ最近はしかめっ面しか見ていない。だけど直人は昔のように、仲の良い親友に戻りたかった。
このやさしい夢から目覚めたくない。そう願っても、少しずつ意識が遠のいていく。どうやら朝は近いらしい。
せめてもう少しよく見ようと目を凝らすと、夢の中の直人と目が合った。目を見開いて、驚いた顔をしている。
何を驚いているんだろう。
胸に芽生えたちいさな疑問も、夢と現実の狭間でぐずぐずに解けていく。
寝転がった床はひんやりと冷たく、頬を撫でる風が気持ち良い。濃紺のカーテンが翻り、視界を遮ったところで、意識がなくなった。
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