ヘーゼルの魔法

七月十一日 木曜日

　静と優にすら、信じてもらえなかったバカみたいな話を、篠塚にまでしなければいけないのか。自分から言い出したこととはいえ、気が重い。
　直人は口の中のものを飲み込んでから、思い切って一息に言い切った。
「あのさ、驚かないで聞いてほしいんだけど。おれ、ここ二日間、寝ている間に猫になっちゃうんだ」
　その途端、篠塚は齧りついていたハンバーガーをふき出した。
「うわっ！　汚い！」
「すみません！」
　篠塚の向かいに座っていた優が、すかさずトレーの上に置かれていた紙ナプキンを手渡してやる。無残に散ったピクルスらしきものを集める篠塚の頬は引きつっていた。
「何ですかネコって。ひょっとして動物の猫のことですか？」
「あ、そのやりとり今朝もう優としたから省略して続き話すわ」
「マジでなんで俺この騒ぎに巻き込まれたんですか！」
　虚空に向かって憤りをぶつけている篠塚は、面白かったので放置しておく。きっとヤツならまたすぐ気を取り直してくれるだろう。
　口元をナプキンで拭ってから、直人は改めて三人に向き直った。