七月十一日 木曜日

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「もう一回言うけど、ここ二日間、寝てる間におれ、遠野が飼ってる猫になっちゃったんだ。遠野にも優にも夢だろ、って言われたんだけど、おれは夢だとは思えなくて……何ていうか、体感がすっげーリアルなんだよ。前足で触れたフローリングの冷たさとか、驚いたときに尻尾の毛が逆立つ感覚とか。こんなの、想像じゃあムリだろ、ってレベルで……」  熱を入れて語る直人とは対照的に、聴衆は困惑顔だ。それはそうだろう。ウィルになった証拠なんてなにもないし。あまりにも荒唐無稽な話で、自分でも何言ってるんだろうっていう気分になってくる。  せめてそのとき起こった出来事を、静が保証してくれたらいいけど。唯一ウィルになっているときに出会った静が、そんなことはなかった、と否定している。  やっぱり、誰にも信じてもらえるはずなんてない。勢い込んで三人もこんなところに連れてきて、バカみたいだ。 「ごめん、やっぱ今の忘れて。最初は絶対現実だった、って確信してたんだけど、昨夜もう一度ウィルになったとき、やっぱり夢だったのかも、って自分でも思ったし……」  尻すぼみになっていった直人を見かねて、優が口を挟んだ。
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