七月十一日 木曜日

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 昨日までは心の底からどうでも良さそうだったのに、自分から尋ねてくるなんて珍しい。 「え?」 「普通、逆でしょう。一度目なら夢かも、って思うけど二度続くなら現実かもしれない、と疑い始める」 「あー、それは……」  さすが静。的確すぎる指摘に、どう答えたものか迷う。  だって、二度目にウィルになったときに、静が自分にキスをしようとしていた、そんなこと現実にあるはずがないから、やっぱり夢だと思った、なんて。本人、友人、後輩を目の前にして、言えるはずがない!  目をそらした先の窓際の席で、数人の女子高生が楽しそうにおしゃべりをしていた。なんて平凡なんだろう。つい三日前までは直人もあの平和の中にいたのに。今は猫になってしまう、なんていうありえない話で友人を振り回している。  今となっては遠い世界を眺めながら、必死で無難な言い訳を探していると、直人の視線を辿って静が振り返った。女の子たちと目が合う。その途端、少女たちは顔を寄せ合って何事か騒ぎだした。  どうせ、すごいイケメン! とでもはしゃいでいるんだろう。やってられない。同じ男として羨ましすぎるし、片想いの相手としても、地獄すぎる。
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