七月十一日 木曜日

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 やさぐれた気分で頬杖をついていると、前を向いて座りなおした静が凶悪な顔で睨んできた。 「あんたってひとは、こんなときにどこ見てるんですか……!」 「は?」  なにやら誤解しているようだが、怒りたいのはこっちのほうだ。 「はぁ? 全然違うし! ていうか今のはお前がおれらに謝るべきじゃない?」  負けじと目つきを険しくすると、静は怪訝そうに眉を顰めた。座り心地のよくない椅子の上でわずかに姿勢を正して、直人に困惑顔を向ける。 「俺が? 何でですか」 「イケメンすぎてごめんなさいって」 「あー分かるわー」  静の怒りは無責任に囃し立てた篠塚に向けられた。静の右手が動いた、と思った次の瞬間には、篠塚のトレーの上に残っていたナゲットは残らず静の口に放り込まれていた。 「てめっ、最後に食おうと思ってとっておいたのに!」  もっしゃもっしゃと口を動かす静の制服を掴んで篠塚が悲鳴をあげる。口いっぱいにナゲットを頬張る間抜けな顔を、あの女子高生たちに見せてあげたい。  静は大して美味くもなさそうにナゲットを飲み込んでから、直人の食べかけのハンバーガーをじっと見つめた。
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