七月十一日 木曜日

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 これは余計なことを言うな、っていう合図だろうか。分かっている。そこまで無神経じゃない。 「うん、でも、おれの聞いたことのない声だった。だから、おれも誰だろう、って思ってドアを開けようとしたら、目の前が真っ暗になって。気付いたら、朝になって、おれは元のすがたに戻っていた」  これなら嘘は言っていない。何とか逃げ切れた、と安堵していたのに、やさしさの塊みたいな友人がさらっと深追いしてきた。 「どんな声だった?」 「うぇっ!? えっと、多分男で、その、なんか、よく聞き取れなくて」  しどろもどろで誤魔化そうとすると、横から静が付け足した。 「そいつに俺が告白されてたらしいです」 「遠野!」  せっかく直人が伏せておこうとしたのに、当の本人が暴露してしまった。  非難がましい声を上げた直人を見返して、静はゆるく頭をふった。 「いいんです、俺にとっては身に覚えのない話なんだし。それに、解決する可能性を少しでも上げるためにも、情報は出し惜しみしない方がいい」
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